あの頃の未来

交流紀

ニューヨークと丸の内

「ニューヨークは下を向いて歩かないと犬のフンを踏んでしまうくらい汚いです。東京は本当に清潔な町です」と行幸通りを東京駅に向かって歩きながら、HIは言いました。真っすぐ前を向いて、風を切って闊歩するタイプだった彼女が、彼の地でどんな風に街を歩き、生活しているのか覗いてみたくなりましたが、ニューヨーク滞在に必要となる費用を聞いてみると、とんでもない金額だったので諦めることにしました。

まあ、私が心配するまでもなく、彼女は遠い異国でも怯むことなく、苦労しながらも彼女らしく逞しく暮らしているようです。

HIが二人の子供を連れて一時帰国したと6月に連絡を受けたものの、なかなかタイミングが合わず、やっと会えたのは猛暑も盛りのお盆の一日でした。折角なので「冷静なのに激熱なS」と「ビッグA」にも声をかけて4人でゆっくりランチすることにしたのです。

少し前の事

HIは入社4年目の春に、初めての異動で私のチームに加入しました。その頃、チームに女性が少なくて、どう扱っていいか戸惑いながらも、彼女が長女と同じ年頃だったこともあって、私は周囲の目も憚らず溺愛していたように思います。「激熱S」は直属の上司、「ビッグA」は少し年上の先輩社員として何かにつけてHIの面倒を見ていましたが、元来の性格の強さと、弾けるような明るさで、彼女はあっという間にチーム内ヒエラルキーのトップに昇りつめ、私たちの過剰なサポートは無用の長物となりました。

時間が変えるもの

丸ビルのレストランで魚料理を囲み、3人の顔を見るとはなしに眺めながら、それぞれにいい顔になったなと思いました。彼らと共に闘っていた毎日を随分昔の事のように思い出しながら、「時間」が私たちを取り巻く環境を変え、私たち自身を変えていることを実感したのです。同時に変化の大きさは時間の長さに必ずしも比例しないということにも思い当たりました。

彼らが私のチームを離れてからまだ5年しかたっていません。その間に「激熱S」は関東の大都市の支店長として活躍し、今は本社に復帰して営業部長として多くのメンバーを率いて奮闘しています。子供みたいだった「ビッグA」は今や一児の父となり、HIは結婚して子供を出産し、夫の転勤でニューヨークに渡りふたり目の可愛い子供を産み、彼女なりの野望(笑)を抱きながら(多分です)懸命に日々を過ごしています。

それ程長くない時間の中で彼等はそれぞれに決断をし、行動しました。そしてあの頃、想像していなかった未来に今、立っているという訳です。それは、なかなか興味深い事実です。

次の未来

濃い青色の空と東京駅のレンガ色の壁を背景に、私たちは猛烈な暑さを潔く受け入れながら集合写真を撮り、手を振ってそれぞれ別の方向に歩き出しました。

そして私は、彼らの健康とそれぞれにとっての成功を祈りながら、大手町から東西線に乗り込んだのです。

5年後、私たちはどんな「今」を生きているのでしょうか。

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